物語
戦後間もない高度成長期の日本。
暦も八月に入ると、大陸からは太平洋高気圧が張り出し、
平年を大幅に上回る猛暑が続いていた。
熱中症で倒れる者が絶えない中、この町には、
暑さにも負けず、凜と咲き誇る少女たちの楽園があった。
――聖バルナバ女学院。
日本国内だけでも、五万人以上の信者を持つ宗教団体を母体とする、有数の名門校。
旧華族や財政界、あらゆる業界からのご令嬢が通う、桜の園であった。
しかし、本来ならば主への敬虔な祈りがこだまするはずの校内で、
いつしか不穏な噂が流れるようになった。
――怪人・赤マント。
不気味な仮面を被り、真紅のマントを翻しては、
黄昏の放課後に嗤う怪紳士。
それは生徒たちを襲うとも、願いを叶えてくれるとも、
多種多様な姿を伴って、少女たちの間で語り継がれていった。
「赤マント様、どうか私の願いを聞き届けてください……」
三人の生徒たちは、旧校舎の"開かずの教室"と呼ばれる空き部屋で、
赤マント召還の儀式を執り行った。
そして、各々の祈りが交錯する中――赤マントは降誕した。
「あーかいマント、いーらんか?」
願いは、少女たちの悲鳴によって霧散する。
「あーおいマント、いーらんか?」
祈りは、少女たちの鮮血によって逆流する。
赤いマントと答えれば、血塗れにされて殺される。
青いマントと答えれば、血を抜かれて殺される。
二者択一の選択を迫られた少女たちが見たものは、果たして――
生か、死か?